例えば、除毛をしていて剃刀で足を切ってしまった時みたいな痛さ。
ひりひりしてなんか痛いって、気がついたら血が出てたり。
切ったつもりなかったんだけどなって、意外と血がたくさん出てびっくりって感じ。

あなたが愛用のピンであたしを刺したことは、そのくらい痛くて、びっくりだった。
刺された瞬間なんて気付かなかった、何されたのかさえ分からなかった。
だから、気がついたら胸にピンが刺さってて、刺した人物があなたで、本当に驚いた。
なんてったって、あなたはあたしの恋人だもの。

まるでスローモーションをかけたかのように、あたしの身体は床に倒れていく。
ピンが刺さってるところも痛いけど、今は背中もじんじん痛んできて、もう何が何だかわからない。
目に映るのは眠る前にいつも見ている天井で、どんどん高くなっていってる気がする。

「恋人がターゲットになるなんて、まるで映画みたいだね」

そういえば、そんな映画、二人で見たっけ。
ありえないありえないってあたしは笑ってたけど、あなたは何も言わずに画面に釘付けだった。
そういうこと、ね。

「ごめん、痛くさせて」

あなたはあたしのそばにいるんだろうけど、姿もなにも見えなくて、声だけが聞こえて、変な気分。
どうせ殺しちゃうんだから、今更優しさなんていらないのにって、言いたいのに声が出ない。
その代わりに呼吸をしたらヒューヒューいってる。

「おやすみ」

死ねという合図と同時に目を閉じた。
だって、恋人があたしを殺してる顔なんて見たいと思わないもの。
だから、潔く死んであげる。






さらば、愛しき人よ。
(永遠におやすみなさい)


 

2008/6/8→2008/11/19