雨は次第に強く降り出した。
身に纏う布という布すべてが水を吸って体が重く感じる。

「ばか みたい」

車の音、人の話す声、雨音。
雑音の中に、私の声は吸われていった。


「だーかーら、ごめんなって」

「…どういうことなの?」

「そのまんまだっつの。」

「じゃあ、今まで、思わせぶりな行動してたってこ、と?」

「そんなつもりはなかったんだけど、ほんとごめんな」

「そ、か」


(銀さん好きよ)俺は愛してる、そう返ってくると思っていて、現実は意外にも現実的すぎた、。
何も落ち込むことはない、誰にだって勘違いはあるものだ。
ただ、銀さんが優しすぎて、ただ、私が愚かすぎただけなのだ。
もしかしたら、頭のどこかで銀さんと自らが絡まっていく妄想をしていたのかもしれない。
いや、確かなことなのだ。
会話をした日、笑い合った日、きらめく瞳を見た日…、私は銀さんのことばかりを考えていた。
頭の中の話ばかりが先走りして、目が合う度に、声を聞く度に、幻は膨らんでいった。
それは、私の体の一部のような、子供のような、そんな存在。

雨の中、ぎゅっと肩を抱いてうずくまると、お気に入りの着物に泥水が跳ね返っていることに気がついた。
どうせずぶ濡れなのだから、そう思って足に力を入れ立ち上がる。
家に帰ったら、とりあえず着替えて、暖かいお風呂に入ろう。

冷たい雨で頭が冷えた為か、無情にも私は落ち着いている。
泣きもせず、ただ雨の降る大江戸の街を歩いていた。


哀しくないとは言えない


(だって私は普通の女)




2008/5/26
→2008/7/12