淋しさが部屋の温度とぶつかった。孤独感に見舞われながらも暖房が効いた部屋にいると、頭を重たくさせ思考力が低下する。ぼーっとなる。
何日も前に出て行ったは、今日も帰らなかった。銀時は一つ溜息をついた。さすがに自分の誕生日には戻って来るだろうと信じていたのは、随分前の話になる。帰って来ない現実を、銀時は「何かの身にあったんじゃないか」と考えていたが、違ったようだった。
「銀ちゃんのばか」
彼女が銀時の前から消える前に言った言葉がこれだ。その事実を知った新八と神楽は「になにかあったら…」と、見た目に似合わずあたふたする姿を見て、呆れてものも言えなかった。


銀時は外出しようとしていた。朝はまだ薄暗かった。それに加え、冷え込んだ。銀時は赤のマフラーを手にとり、首に巻き付け玄関へと向かった。靴を履き、一度深呼吸をして扉を開けた。
「いってきます」
銀時の声は、彼の口元で響き落ちた。


急に冷たい空気にあたったからだろうか、針で体中を刺すような痛みは数分続いた。そしてその数分後は、ぽかぽかと体が熱くなりうっすらと汗をかいていた。
「ぎーんちゃんっ」
額の汗を拭おうと手をかけた時、銀時は女に呼び止められた。声ですぐに誰か解った彼は、口元を緩めながらゆっくりと振り返った。そこには、前に会ったときよりもずっと長くなった髪を二つに結ったが居た。彼女も銀時と同じ赤のマフラーを首に巻き付けている。
「お、久しぶりじゃねぇか」
揃いのマフラーを見て照れているのか、銀時はぶっきらぼうに言った。彼の照れに答えるようにして、はにいっと笑った。かと思うと、スイッチが入ったかのごとく急に銀時の目の前まで行き、飛び付いた。
「久しぶりすぎるよ」
「ごめん」
「銀ちゃんの匂い、懐かしい」
「そうかー?」
「うん、男臭いもん」
「え、臭いの?俺臭いの!?」
「冗談…」
話しているうちに、の声は小さくなっていった。顔を銀時の胸に押し付け、まるで猫のようだ。
ー」
「なーに?」
「帰るか」
「…うん」
しん、と静けさが鳴ったような気がした。まだ薄暗い空を見つめ、は銀時に呟くようにして小さく言った。

「誕生日、おめでと」








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