あたしの乙女魂はひょんな事から発動する。たとえば、沖田と神楽ちゃんがワキワキとじゃれあっている時、しかないんだけど。
とにかく、二人が追いかけっこをしている時や、一緒になってマヨラーをいじめてる時に、あたしはいつも乙女になる。
それは多分、あたしが沖田を好きだからだと思う。(だって、土方がいじめられてる時に、ちょっとだけ羨ましかったし)
でも、ここで一つ問題点があって、それはあたしが完全なる片思いだということ。
「俺、実はチャイナ娘の事が…」
本人の口から神楽ちゃんへの思いを聞くとは思っていなかったし、覚悟も出来てなかったから、あの時のあたしの笑い顔は悲惨なものだったんだと思う。
誰にも見せたくない顔を、沖田に見られてしまった。
けど、頭の中はチャイナ娘さんでいっぱいだっただろうし、沖田の頭の中にはあたしの悲惨な笑い顔はすぐに消えて無くなってしまったんだろう。
それから何日かして、神楽ちゃんは頬を染めながら嬉しそうに言った。
「あ、あたし、サディストと付き合う事になったネ!」
あたしは沖田に見られた、あの悲惨な笑い顔を神楽ちゃんにも見せてしまった。
「土方さん、死んでくだせェ」
「マヨラーはワキガって本当アルか!」
「て、てめぇら…」
毎日のことながら、土方は二人にいじめられて呆れ返っている時だった。
またあたしの乙女魂が発動した。
いつもならケータイを開いて沖田と神楽ちゃんを見ないようにするのに、今日は違った。
いつも以上に大きくなった乙女魂が、音を立てて爆発してしまいそうな予感だった。
「痛って…!何しやがんでィ」
休み時間であるというのに静まり返った教室と、座っていた椅子から転げ落ちたように床に尻餅を突いている沖田。
「何々?」と生徒達がざわつき始めた。
「!」はっ、と正気に戻ってあたしは初めて沖田の体を思い切り蹴った、という事実を知った。
その証拠に、沖田白いシャツに茶色い足跡がの着いている。
それを見て、どう弁解しようかと頭をフル回転させた。
「や、その、」たじろんでいると、神楽ちゃんが沖田の手を引いて「大丈夫アルかー」なんて言って笑った。(あたしの乙女心も知らずに、!)
その笑いで、周りはいつものじゃれあいかと思ったのか、また教室が騒がしくなった。
「何でさァいきなり」
「が蹴り入れるなんて珍しいアルな」
「何かあったか?」
沖田は蹴られたところが痛いのか、椅子に座り直してもなお手ですりすりと摩っている。
そんな沖田を他所に、土方はあたしの事を心配してくれた。
「あ、たし!」
顔を思い切り上げて、心を決める。
いきなり大きな声を出したせいか、また教室がしんとなった。
「ひ、土方の事が好きだから、あんまりいじめないで」
言い終わると同時に周りがざわつき出す。
土方は、いきなりの告白に顔を赤くして固まっている。
沖田は「へえー、よかったですねィ土方さん」と言って、神楽ちゃんと目を合わして笑った。
その顔があまりにも幸せそうで、嫌になって今度は沖田の足を思い切りふんずけて言ってやった。
「恋する乙女を甘く見んな!」
そのあとすぐに土方の手を引っ張って廊下に出て「ごめん」と謝ると、土方に「俺、も好きだ。付き合わねえか?」なんて言われた。
断る事も出来ずに、あたしは小さく頷いた。
エミリーのピアニシモ
(それは一度きりの小さな抵抗)
070930/071004