「もうどこにも行かないで」
やっと言えたのに、途中から声がひっくり返ってしまった。
わざとではない筈なのに、今のムードを考えると丁度いい具合だったのかもしれないと思ってしまう。
私は小さくなって銀時の腕の中に収まろうとしているものの、銀時はいつまで経ってもぎゅっと力をいれてくれない。
それは、もう時間がないんだって言われているようで嫌だったけど、今はとにかく、どこにも行って欲しくなかった。
せめて、今の私をぎゅっと抱きしめて、甘い言葉で私を説得してくれたのなら、私は少しだけ下唇を噛んで「わかった」と小さく呟くのに。
それすらもしてくれないのは、本当に時間が押し迫っているからだと思う。
ふたりで過ごす時間と、銀時の時間、或いは私の時間が。
「帰ってこれたら、どこにも行かねえから、だから」
小さく震える私の腕を掴んで、銀時は真っ直ぐな目で私を見た。
その目には確かに光と私が映っていて、それがまた私の気持ちを大きくした。
「行かないで、ここにいて」
すぐ泣き出してしまいそうな私はとことん乙女で、銀時をいつも困らせた。
今日もまた、。
光と私が映るだけの銀時の瞳を見ながら、「いやだ、いやだ」と駄々を捏ねる。
いつもなら呆れた顔で頭を撫でてくれて、ニカっと笑ってくれて、ワガママを聞いてくれるのに。
「帰ってくるから、」
この真っ直ぐな瞳が、私のワガママを消してしまった。
私は下唇も噛まずに、背を向けて玄関に立つ銀時を見た。
「また、な。」
よく聞き取れなかった言葉は、微かに震えていた。
出発前のLOVE SONG
(神様、どうかあの人を死なせないでください。)
20070929