夏がそろそろ終わるらしい。

毎年蝉がコンクリートの上に転がっているのを見ると、そう思う。
今年は何もしなかったなぁと、少し後悔をした。

毎日クーラーの効いた部屋に居るせいか、ちょっと外に出ただけでだるい。
それに、ほとんど昼夜逆転生活をしているあたしにとって、2学期からやってい
けるのか…先が思いやられるばかりだった。(とか言ってみても、どうせ学校が始
まると元気よく毎日登校なんだけど。)



「にしても、あっついなぁ」
久々に外に出てみれば、夏休みは残り数日だというのに太陽がギラギラと光り、
あたしの肌をジリジリと焼いた。これじゃあ日焼け止めを塗った意味がないっ、
そう思いながら自転車を漕ぐスピードを速める。


丁度、帰り道の川の土手を通り掛かった時だった。
横目で何やら屯している人物らを見ると、それが知り合いだと気付くのにそう時間は掛からなかった。
何より、屯っている人物らの一人があたしに気付き、大きく手を振って来たのだ。
そこであたしは初めて気付いたかのように自転車を止めた。

〜!」
クラスの友達、神楽ちゃんが勢い良く土手を駆け登ってきた。

「久しぶり!あれ、何やってたの?」
あたしは川原にいるクラスメイト達を一度見て、神楽ちゃんに言った。

「あ、今日花火するネ!それの計画と準備してたアル。」

「ふーん・・・」ともう一度川原を見ると、神楽ちゃんが「あー!」と叫んだ。

もやろうよ、花火!今日6時半にここ集合で女子は浴衣で参加。あ、あたし準備あるから・・・来るアルヨー!」

と、神楽ちゃんは言うことを言ってまた川原へと戻っていった。
じっと神楽ちゃんを見ていると、屯していたクラスメイト達が手を振ってきた。
あたしは手を振り返して、自転車を漕ぎ出した。


---

あたしは家に帰ってからシャワーを浴びて浴衣を出した。
浴衣をお母さんに着付けてもらっている途中、どうして女子は浴衣なんだろうと考えた。
(神楽ちゃんのことだから、一人だけだと照れくさいんだっ)
乙女だな〜と思っていると、携帯が鳴った。

「あ、もっし〜」

「はい、もしもっし〜」

「今日の花火なんだけど・・・」

神楽ちゃんからの電話によると、この際だからクラス全体でやろう、ということになり銀八先生まで呼んだらしい。
もう彼女は川原に居るのか、電話の向こうからは女子や男子の声が聞こえた。
あたしは言われた通り、6時半に昼間の川原ヘと向かった。

---

「ひやっほーう!」

あたしが着いた頃には先に着いていた人達が楽しんでいた。
まだ完全に日が沈んでいないにも係わらず、もくもくと煙を出しながら花火を楽しむクラスメイト。
それに混ざり込むように、あたしはその中へと入っていった。

彼此れ30分、まだ辺りは薄暗くみんなの顔は辛うじて見える。
浴衣でわいわいがやがやしてさすがに疲れたあたしは、少し大きめの石の上にビニール袋を敷いて座った。
んーっ、と大きく空気を吸うと、煙が喉に引っ掛かって少し咽せた。
ごほごほと咳をしていると、背後から聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。

は土方さんが好きなんですかィ?」

いきなりの出来事だったため、また咳が出そうになった。
振り返ると、総悟が線香花火を持ってすぐ傍に座っている。
「え、なんで?」と返すとハニカミ笑いが跳ね返ってきた。

、線香花火勝負しましょうや。先に落ちた方が負け。」

「お、おうよ!」と二つ返事をして彼から線香花火を受け取った。
二人同時に火をつけて、ジリジリと燃えていく紙を見つめる。
数秒後、パッパと花が開くようにして火花が散った。
そして火花が散るにつれて、どんどん火玉が大きくなっていく。
少し、あたしの心臓のようだと思った。
訳も判らずドキドキして今にも落ちてしまいそうな、あたしのようだと思った。

「俺、の事、前から気になってたんでさァ」

は?と思い、途端に恥ずかしくなって聞こえなかったフリをした。

「あ、落ちそう…」
あたしは何ごともなかったかのように線香花火の火玉を見つめながら言った。
すると彼は独り言のように呟いた。

「…好き、なんでさァ」

あたしはかなりの小心者だから、彼の顔はあえて覗かなかった。
覗いたら怒られそうだったし、覗かなくてもわかる気がしたからだ。
だから、手元の線香花火を見つめながら今にも落ちそうな火玉に、叶わない願いを心からぶつけた。




時間よ止まれ!
(この火玉が落ちてしまえば、きっと恋に落ちてしまう)





20070825
ハ行ハ「花火」
By-携帯変換TITLE