口をパクパクさせながら女が何か言っている。
けど、その声は聞こえない。
不思議な感覚に楽しみを覚え、それから数分女を観察した。

パ ク パク パク、パ

さっきまでパクパクさせていた口がいきなり止まった。
滲んだ目、だらしなく開いた口からは白い歯と赤い舌が見えた。
動かなくなったのを見て急に馬鹿馬鹿しく思えた。

思い出したかのように、いろいろなことに気がつく。

夕方、部屋に俺が居る、薄暗い、何してんだ俺。
灯りつけないと、と薄暗い室内を歩く。
灯りのスイッチに触れると、パっと明るくなる視界。
ソファーに座ると足元に何かが触れた。
ゆっくりと目線をずらすと足が見える。
その瞬間目を見開き、驚いてソファーから腰を浮かした。
足を辿って顔を見る。

・・・?」

その顔が恋人のものだと気付く、呼吸が荒くなった気がした。
ああ、あ あ、と言葉にならない声を出しながらの傍に座る。
そっと頬に手を添えると、冷たい肌と赤い血が指に着いた。
その指で、の唇をなぞる。


「    」

自分の発した声が聞こえなくなった。
不思議な感覚に楽しみを覚える。
何故だか、少し体がだるくなって床に横たわってみた。
横目で見たの顔が笑った、ような気がして、嬉しくなって目を閉じた。

(俺ってなんてロマンチストなんだろうな)




2007.08.23
ラ行ロ「ロマンチック」
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