何も変わらない。
ただ、1人分の荷物が玄関にまとめられていて、部屋が広くなった気がするだけ。
多くもなく少なくもないその荷物は、今までこの部屋に置かれていたもので。
その持ち主がこの部屋を出て行くと言うから、荷物も持っていかれるわけで。
何かが変わったという気にはならない。

「神楽が泣くぞ」
こんな時に何言ってんだ、と自分を憎んだがは俺の言葉を聞いた後、笑顔を見せた。
この顔も見納めなのかと思うと急に胸が痛くなる。
「銀時は泣いてくれないの?」
いつもと何も変わらないは、いつもの声で言った。
動揺しないに少し苛立つ俺は、よりも年上なのになんて幼いのだろう。
それもこれも、現在が午前5時だからだろうか。
まだ今の状況に脳が着いて行ってないからか。
「俺は明日にでも忘れるわ、今までのこと。」
我乍ら、心にも無いことをよく言えたと思っている。
は「そっか」といつものように言って、荷物を手にした。
本当はこいつが居なくなったら、俺はどうにかなってしまう。
本人の前では強気で居るものの、こいつが出て行ってしまえば俺はすぐにでも神楽を叩き起こしが出て行ったと言うだろう。
そして、神楽に追いかけさせる。
マジで駄目な男だ、マダオだ、せこすぎる。
そんなことを思っていたら、がじっと俺を見ていることに気が付いた。

「何?俺ってそんなかっこいい?」

「・・・ばーか」

漸くがしんみりとした空気を持ってきた。
それに押されないよう、俺はいつも通り平然を装う。

「今までありがとね」

「ああ、どーも。精々達者でな。」
俺はそれだけ言うと、玄関の扉を開けてやった。
は右足を一歩踏み出し、ゆっくりと左足をその右足に揃えた。

「銀時、」
振り返るはスローモーションをかけた映像のように見えた。
「冷蔵庫に、昨日のご飯の残りがあるから、食べてよね」
俺はこくりと頷き、階段を下りようとしているを見た。
もうこの女の項じを見ることもないのだと思って、また胸が痛くなった。

「あ、そういえば」

は足を止めて俺を見もせずに言った。

「あたし、昨日前髪切ったの、気付いてないでしょ?」

銀時のことだから、と寂しそうに言いながらまた階段を下りだした。
俺は何も言わず、を見送った。
「切りすぎだろ、前髪。」そう、朝顔を合わした時に言わなかったのは、最後まで俺はマダオだったから。
冷蔵庫に頭を突っ込んで、涙を流しながら昨日の煮物を食べる、マダオだから。


(どんなに頭を冷やしても、あいつの後姿しか思い出せねえ)



2007.08.19
ラ行「冷蔵庫」
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