あたしの先生は、ちょっと変わっている。
猫っ毛の髪と、死んだ魚の目をしている。
その上ずれかけた眼鏡とだらしなく結ったネクタイ。
どこのチンピラだよって最初は思っていたけど、今は違う。
今は、大切な先生、大切な人。
「ー、もう帰ってくれません?銀ちゃん先生さー、前に学校に閉じ込められそうになったんだぞコノヤロウ。」
誰のせいだ、と言う先生をちょっとだけ無視して「みて!これ。」と雑談をしながら書いていた手紙を見せた。
ぽりぽりと頭を掻いたあと、あたしの差し出した紙を手にとって見た。
「さ、声に出して読んでみよー!」
「その無駄なテンションは授業で使えっつの、はい、えー何・・・。」
少しだけ、少しだけ、先生の顔が曇った。
早く読み上げてよ、と急かすとそれには何も返さず、低い声で読み出した。
「こんにちは。あたし、はち子。の友達なの。がいつもお世話になってます。先生のことはいつもから聞いてるんだよ。今日も先生と放課後デートしたとか、煙草は嫌いだけど先生の煙草の匂いは大好きだとか。先生は多分、気付いてないだろうけど、は先生のことが好きです。最初は先生が大嫌いだったらしいんだけど、先生を見ていると夜も眠れないくらい好きになっていました。の代わりに言います。銀ちゃん先生、大好きです。」
先生の声が止まる。そこで、あたしの書いた手紙の内容は終わっていた。
2人だけの資料室に沈黙が続き、やっちゃったか、と思うと先生が口を開いた。
「ちょっ、ちゃん。これさ、さっきお前が書いてたよな?」
「うん、書いてたね。」
きゃははと笑うと、先生はあたしの頭を突っついた。
「大人をからかうなって。」
「もしかして、どきっとかした?」
「うるせー、もう帰ってくださいませんか、お嬢さん。」
先生は、からかうあたしをあつかましそうに資料室の出入り口へと追いやる。
もう完全下校の時間なのだろう。
けれど、もう少しだけ、もう少しだけ、と、一緒にいたいと思う気持ちが強まった。
先生の方へ振り返り、あたしは深呼吸をした。
「なに?」
いきなり振り返ったあたしに問い掛ける。
3秒後、あたしは多分、後悔をする。
「せんせ、大好きです。」
もう後には引けない。
最後のチャイムとあたしの声が重なった。
先生の曇った顔が、もう一度。
2007.08.05